1978年8月4日、日本の作曲家・古賀政男に王貞治に次ぐ史上二人目となる国民栄誉賞が贈られた。その死後わずか10日後のことであった。
古賀メロディといえば、旋律もさることながらイントロや曲中の乾いたギターの音色が切ない。あの音はピック(イギリスではプレクトラム)で弾かれているのだが、古賀がマンドリン奏者でもあったことを知れば頷ける。彼は明治大学予科に入学して、明治大学マンドリン倶楽部の創設にも関わっている。
あのトレモロ奏法は、マンドリンがベースにあるのだ。
藤山一郎との出会いは、NHKの連続テレビ小説「エール」でも描かれていたが、多くのヒット曲を生み出した。
「丘を越えて」、「東京ラプソディ」など軽快なメロディの曲も良いが、古賀政男の極め付けは「影を慕いて」ではないだろうか。
大学時代、古賀は旅先で自殺を図ったことがある。それは未遂に終わったが、その時の蔵王の夕暮れから「影を慕いて」の詩が浮かんだという。
そう、「影を慕いて」は、作詞も古賀政男なのだ。
この名曲が生まれたのは、1932年。五・一五事件のあった年である。
完成された世界観、切ない詞とメロディが今でも人の心を撃つ。