エチオピアの陸上選手、アベベ・ビキラを覚えている人は多いだろう。ローマ、そして東京のオリンピックのマラソンで、いずれも当時の世界最高記録で連覇を遂げた選手だ。
1960年のローマオリンピックでは、アベベは裸足で走ったことで知られているが、これは試合前に靴が壊れてしまったためだった。ただ、急に裸足で走ることは難しく、子どもの頃から裸足で野山を走っていたことがあっての選択肢だった。
史上初の連覇がかかった東京オリンピックでは、レースの6週間前に盲腸の手術を受けており調整不足と思われていたが、20kmあたりから独走態勢に入り、悠々の世界最高記録で金メダルに輝いた。
アベベのマラソンの通算記録は、16戦12勝(2位、5位、棄権2回)で勝率は75%で、瀬古利彦の15戦10勝を上回る。ちなみに世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ(ケニア)は21戦16勝の76%である。
3連覇のかかったメキシコオリンピック(1968年)は、トレーニング中に痛めた左膝の影響で途中棄権となったが、同僚のマモ・ウォルデが優勝し、エチオピアが3連覇を遂げた。
その半年後、アベベは自動車の運転中に事故を起こし、頸椎脱臼により下半身不随となる。
そして1972年10月25日、アベベは脳出血により41歳の生涯を終えた。
我々の世代には、忘れられないランナーだった。